ナベさん、憑依
あの日の出来事を機に、ナベさん(渡辺裕之)は自分に寄り添う様になった。とも言える。
ナベさんも本来なら奥さんの原日出子さんや家族を見守らなきゃいけないのに、何故自分なんだとつくづく思う。
でも、彼の様な自死という結末を避けたい為に自分を助けようと叫んだのも納得できる。
何せ、その後も自分は性懲りもなく何度もパチンコに走ってしまうのだ。
自分はパチンコ依存症を持っていて、とにかく金があるとパチンコに走ってしまう兆候になる。
あの飛び降り未遂以降もパチンコに行っては勝ってと負けての繰り返し。そしたら自分の心の中にいたナベさんがこう呟いた。
「あまり行き過ぎない方がいい。自分を大事にしてほしい」
その呟きを聞いたにも関わらず、ある日再び大敗を喫した。その時も死のうと考えてしまい、相談員にも死にたいとLINEで伝えていた。自分は普段は電子マネーで過ごしている。現金を持つとパチンコに走ってしまうので、現金がもらえるのは五百円程度の小銭しかもらえない。その電子マネーも使い切りそうだった為、臨時チャージを頼みながらも現金を求めていた。しかし、現金は小銭しか出せないし、大きい金は電子マネーでしか渡せないと頑固一徹で、結果的に混乱して自棄になり、もう本気で死んでやると伝えた。その時だった。
「このままじゃまた死のうとするかもしれない。僕が代わりに君になろう」
と、声が聞こえて、その後に自分が相談員に伝えた言葉は、
「わかった。それで頼む」
と、相談員の要望を認める一言だった。
自分はその時の記憶があまり覚えていない。微かに覚えているのは、ぼーっとしている自分の代わりに誰かが返事をしていて、しかも口調が"僕"口調になっていた。しかも、「彼女の中に入ってるんだ」とも述べた。
その日はラシクラボの契約書を取りに行く為に相談員と共に車で作業所に向かった時にその事を"彼"が話していた。
はっきり覚えてるのはそれだけだった。
それが二日か三日ぐらい続いた。その頃には最早死にたいとかどうしようもないという思いは考えてなく、穏やかに過ごしたいと思っていた。
もしかしてあの時、ナベさんが本当に憑依していたかもしれない。確かにこの状態の時は本当に落ち着いていた。
ナベさんは自分が自分を追い詰めない様に助けてくれたのかもしれない。
思わず安堵して心が少し軽くなった様な気がした。
夜空の月や星々に向かってナベさんに感謝していた時には既に、"自分"に戻っていた。