top of page
序章
気が付いてみると、この狭い部屋に幾人もの人々が男女関係なく集まっては近くに寄っていた。
しかもマスクもしてないし、換気する窓もなければ消毒液もないし、空気を循環する加湿器もない。
ただでさえこのコロナ渦。ある程度の感染対策はしておかなければならないのに、それすらままなっていない部屋。そんな部屋に彼らはまとまる様に集められていた。
ソーシャルディスタンスをも適してないし、密閉かつ密接。未だに感染者が増えてる一方で、こんな状態では自分でさえ感染してしまうと、目の前の彼らを見て、沙耶は思った。
当然、沙耶だけじゃない。周りの全員が彼女と同じ思いだった。
彼らは見ず知らずであって、何ら関係もない人達。
ただ沙耶は彼らの顔を一瞬見て、多くが見かけた顔であるのが分かった。
大半はTVで見かける人達ばかりだった。
若手アイドルとして活躍して、近々主演映画が公開され、華やかで入り乱れが多い芸能界で順風満帆に活動する青年。
かたや、注目の若手女優として活躍しながらも、最近SNSで信じがたいような発言をして炎上し、出演しているドラマが降板になった女性。
芸能人だけじゃない。このコロナ渦を止めなければならないと言いながらも、一部の議員や自身の不正行為をひた隠そうとする政府の議員、それを暴こうとする野党の代表…
そして自身は何度も見かけている幼馴染…
ざっと数えて13人。そんな彼らがこの狭い一部屋で集まっていた。
しかもマスクもしないで密になって、一束に集められていた。
実は自分自身も何があったかでさえ覚えていない。
どうしてこうなったのか、何故ここにいるのか。
ふと、部屋の様子を見てみた。よく見れば別の部屋へと続く三つのドアがそこにあった。
ただ三つとも頑丈そうだ。厳重にカギが掛けられているのは言うまでもない。
上を見れば、一つだけ、ポツンと置かれてる様にスピーカーがあった。
そのスピーカーから、突如、声が聞こえて来た。誰かさえ認識できない加工された声で―――
「初めまして、自分達しか考えられない人達よ」
-本編に続く-
bottom of page